(ぬ)乙女ゲーム感想保管庫。

乙女ゲームの感想日記。

月影の鎖 ―錯乱パラノイア― 総合感想


TAKUYO制作、白鳥ユアン企画作品。
殺伐とした世界の中で一筋の光を見付ける恋愛ADV


月影の鎖 ―錯乱パラノイア―



「カエル畑DEつかまえて」と同じ制作陣で贈る、暗く儚い陰鬱を孕んだ歪な愛の話。離れ島にある小さな街を舞台に、財政難の渦中に巻き込まれながらも、人の心に巣食う影と向き合う物語。




――それでも愛してくれますか


本土から遠く離れた小さな島にある唯一の街「紅霞市」。
風光明媚なこの街は、良質な温泉と華やかな花柳街で賑わう温泉観光地として独自の発展を遂げていた。


しかしそれも昔の話。


大正末期の情勢不安からか、はたまた島を襲った災害のせいか、次第に客足は遠のき始める。観光産業が主だった資源である島は、財政破綻の危機にまで陥り、住民に暗い影を落としていた。


しかし、彼等には一筋の希望があった。
島の治安と未来を想う若者達の集団「紅霞青年団」。
特に、その団長である「神楽坂響」、彼の右腕の「望月理也」は住民達の期待を一身に受けていた。


他にも、
本土から派遣され、災害復興と治安維持にあたっている軍人「猪口渉」。
旅行者であるが、島で何らかの仕事を行っているという青年「榛名望」。
島を揺るがす問題に、それぞれが自身の正義を掲げ向き合っていた。


そんな中、市長が呼び寄せた男が提唱した「駐屯地誘致案」を巡り、街は混迷を深めてゆく。


勿論それは、小料理屋「月の畔」の女将である主人公「冬浦めぐみ」も例外ではない。幼い頃に両親を亡くし、大井川家に厄介となった彼女は、兄と呼び慕っている「大井川護」と共に穏やかな日常を過ごしていた。
彼女は、島を巡る騒動の渦中に巻き込まれてゆくことを未だ知らない。


これは激動の時代を必死に生きる人々の戦いの記録である。



公式サイトより)


プレイ時間


共通:2~3時間
個別:8~9時間


共通と個別の境目が分かりにくいので、初回は気づけば個別に入っていたという印象ですね。個別に入ってからも「神楽坂・望月共通」「猪口・榛名共通」と大まかに二つの流れに分かれ、更に個別に入ります。こう書くと共通が多い印象ですが、個別シナリオは全く違うシナリオ展開でそこそこにボリュームがあるので、読み応えたっぷりかと。波の激しい物語というより、じんわり傾いていく島の情勢に合わせて移り変わっていく人間の心の描写がメインです。悪い方向にもいい方向にもゆっくり変わっていくので、しんどい展開は続きますが非常に考えさせられるシナリオでした。



選択肢/ED

選択肢

選択肢は基本2~3択(愛キャッチ有)
共通個別分岐のみ場所選択で複数選択肢が存在します。好感度、依存度のパラメーターにわかれ、数値の違いでED分岐します。


ED

恋愛、依存、BADの三種類。
恋愛EDは相手に恋をして、その恋心を糧に自身の心を強く持つことで迎えるEDです。攻略対象と共に島の問題に向き合い、いい方向に進むハッピーエンド。抱えている問題にもきっちり向き合うのでとても後味よく読めます。恋だけでなく、立場や周りにも目を向ける事でたどり着く印象ですね。


依存EDは生まれた恋心から身を崩す形で迎えるEDです。決して手放しの幸せをつかむ事はないけれど、二人強い気持ちで繋がるメリーバッドエンド。これが凄く凄く刺さりました。この作品、いい意味でも悪い意味でも「恋心」というものは相手への「妄信的な依存心」から成立しています。恋愛EDでも、依存EDでもその部分は同じです。その想いを光にできるか闇にできるかの違いです。自身の心にある脆さと弱さを救おうと相手だけを想うことでたどり着くのがこの依存EDだとおもいます。根本的に心の奥底で抱えている闇に引っ張られる故の終わりなので、どの依存EDもそれぞれが迎える結末はそのキャラ”らしい”と感じる終わりでよかったですね。凄く人間らしさを感じます。


BADは恋愛、依存EDから派生する結末です。キャラによって数が違います。基本的にスチルがありません。ぶつ切りBADも結構ありますが、中には鬱くしい一つの終わりを迎える最高のBADもあるので必見かと。


全EDシーンリストがあるので回収必須です。


システム/サウンド/グラフィック

システム

既読スキップは凄く早いし、自動クイックセーブが非常に便利で、快適優秀システムでしたね。ただ「R」ボタンが未読スキップになってます。「L」ボタンが未読スキップなので押し間違いに注意が必要です。うっかりPSPを落としたときにLボタンに当たって凄い勢いでスキップされたこと何回かありました。スキップ速度本当に早いので、あっという間に飛びます。


サウンド

しっとりとしたものが多く、作品の儚くもほの暗い世界観がよく出るBGMでとても良かったです。またOPが素晴らしいですね!片霧烈火さん!個人的に片霧烈火さんといえば美少女ゲーの方で主題歌を担当されてる事が多いイメージでしたので、乙女ゲームで聴けるの新鮮でした。


グラフィック

作品全体がほの暗い印象なので「夜」の背景が多いように感じます。というか記憶に残っているのがどの背景も「夜」です。またキャラデザのヒロセアヅミさんのスチルが非常に素晴らしい。小物や背景の描きこみ、全体で見たときにうっとりするようなバランスのとれた綺麗なスチルばかりで思わず画集が欲しくなるほどでした。パステルカラーが多くあしらわれて可愛い印象をもつ色合いなのに、薄暗い儚さを感じるスチルになっているのが本当に素敵だなと。構図も素敵なものが多くって大好きです!



シナリオ

「鬱ゲー」として有名な本作。確かに陰鬱とした暗い、人の汚い部分に向き合いながら、心をすり減らしつつも前に向こうと必死に生きる物語になっております。甘いシーンやときめきシーンよりは胸糞と感じるシーンの方がインパクトあるので、プレイした人によれば最終的に「島の住民の態度」ばかりが印象に残る人もいるかもしれません。ですが、決してそれだけで終わるような作品ではなく、むしろ人間だれしも生きていれば抱えているだろう、汚い部分や、暗い部分。明確にはっきりと答えが出せないようなあいまいな部分に、物語に身を置きながら向き合い考え直させられる非常に素晴らしい作品だったなと私は感じます。この作品から感じ取るものや学ぶものも沢山あるんじゃないでしょうか。生きている人間の人生に触れさせてもらえるような、凄く人間らしい物語ばかりで、プレイしていて共感するものが多かったです。「1」か「10」ではっきりさせれない、明確にあらわせれない繊細な人の気持ちを丁寧に描いていたと思います。それは文章からも現れていて、非常に綺麗で心に残る、言葉選びばかりでした。比喩表現も多く、明確にこうだと表記しない、「語らない」良さといいますか。読み取らせる余韻といいますか。少し違いますが、私和歌や短歌で秘めたる想いを告げるシーンとか凄く好きなんですよね。この作品の文章にはそうしたものと似た「趣」を感じるものがあって、読んでいて凄く凄く刺さりました。美しい文章だったなと。大好きです。お話自身もそもそも財政難に向き合うシナリオなので、政治が絡む堅苦しい難しい文章が続く事も多いです。人の悪意を直にぶつけられますし、「お金」というどうしようもない問題が絡んでくるので、そこに振り回されていく人間の心を描く分、どうしてもプレイ中辛くなる事が多いです。くしくも今の日本とリンクしてしまう恐ろしさ、身に染みる不安を感じました。ヒロイン自身も鬱屈としたものと向き合うので、プレイしていて疲弊するものも多いかと思います。決して万人受けしない事は分かってますし、手放しに人におすすめできるような作品じゃないのは分かってますが、個人的には凄く凄く大好きで心に残る作品だったなと感じます。こうした生きた人間の「人生」に触れさせてもらえる作品に出会えることに凄く感謝の気持ちでいっぱいになりますね。本当に出会えてよかったと感じる作品です。FDのほうも是非プレイしようと思います。




キャラについて


冬浦めぐみ


本作ヒロイン。作中で一番危うい存在なんじゃないでしょうか。乙女ゲームのヒロインらしからぬ、陰鬱を孕んだ少女。この作品における「恋愛」とは彼女が生きるうえで必要なトリガーであって、甘いものじゃないんですよね。妄信的に依存する相手によっていくらでも変わる印象です。そういう意味では彼女は「月」なんでしょうね。彼女の存在は月であり鎖であり月影であり闇であり。人によって受け取り方が凄く変わる子だと思います。一般的にいえばいわゆる「地雷女」と言われる部分がありますね。でも個人的に彼女には人間だれしもがなにかしら彼女に共感するものを持っているんじゃないかと感じています。それを自覚しているか否かの違いで。少なくとも攻略対象達は何かしら彼女と共感するものがあるので依存関係にいたるんですよね。私も彼女に共感するものが多いです。彼女の持つ鬱屈とした闇に惹かれた人間です。乙女ゲームのヒロインとしては確実に好き嫌いが分かれて、むしろマイナスよりな子だと思いますが、一人の人間としては凄く好きな子ですね。人間らしい。大好きです。



神楽坂響


自ら眩しく光を放つ「太陽」に見せかけて、環境によって太陽のように照らされていただけの「月」の人。狡猾な策略家ですね。しかし彼の”鎖”は自己犠牲で縛られているのがまたいいというか。大人な分、闇に対しての身の持ち方を自身で自覚してるんでしょうね。ズルい大人だなぁと感じました。



望月理也


個別の感想を書いたときは彼は光の方に生きる人間と称したんですが、振り返ると彼の根っ子は闇なのかなと。彼自身最初にめぐみに照らされたゆえに光になれただけで、根底にあるのは雁字搦めの鎖と闇かと。故に関係が逆転したときに引きずられてどこまでも落ちていけるのかななんて。



猪口渉


本作で根本的に光の人間であるのが猪口さんなのかなって感じます。ただ彼は環境がそうさせなかっただけで。光輝ける場所があればいくらでも輝ける人かと。彼は心の鎖より、周りに縛られていた印象です。けどそこに伴う鬱屈としたものがあってもおかしくないのに、作中では彼のそういう部分は読み取れなかったんですよね。環境的にいつ闇に落ちてもおかしくない人だとも感じます。けど踏みとどまれるのが彼が光の人間たるところなのかなぁと。眩しく輝くと言い寄り、光で包み込む印象です。



榛名望


最推し。完全に闇に生きる人間ですね。全力で危なっかしい方向に振り切ってる印象です。めぐみという依存がない彼はいつどうなってもおかしくないでしょう。救いを求めているのに死に向かいたい。矛盾をはらんだところが愛おしいです。頭もよくて器用なのに不器用に生きてるなと。本作で闇に惹かれて落ちていく様が鬱くしいと感じるキャラが多いんですが、榛名はそこから救ってあげたい気持ちもつよいです。一緒に闇にずるずる落ちて光に向かいたい。この作品で一番純粋な想いで推してるキャラですね。



最後に

本当に愛してやまないゲームになりました。この作品で感じたものを上手に言葉に表せれない自分が悔しいです。でもそういうところ含めて「月影の鎖」という作品ですね。刺さる人には刺さる中毒性を持ってます。FDが凄く楽しみで早くやりたいです。もっと彼らの人生を見たいし、知りたい。大好きです。



推しランク

榛名>望月=猪口>神楽坂


榛名が自分の中で圧倒的です。榛めぐが好きすぎる。
でも望月さんも猪口さんも大好きですし、神楽坂さんも嫌いじゃないです。どのキャラも非常に魅力的なものを持ってますね。大好きです。榛名、、、幸せになろう、、、